自由帳

Ask perfection of a quite imperfect world.

31/01/2022: シャニマス短歌 1月号

1月29日開催の前回の歌会に4首を提出したものの、残念ながら都合が付かず通話には参加できなかった。ただ、その場で自作を話題にして頂けたようであり、かつ自身としても整理をしておきたいと思うので、解題を書く。提出したのは以下。

 

  1. ありがとう、スノードームに護られた日々 朝焼けの海で目覚めて / noctchill
  2. 先代の居候です。覚えてる? 三〇二号の窓は西向き / 桑山千雪
  3. am のあと I が来たっていいんだね そのしなやかさと歩む、わたしは / 福丸小糸
  4. ときどきは妬ましいのかも人類の正夢めいた君のたましい / 八宮めぐる

 

<1>

ありがとう、スノードームに護られた日々 朝焼けの海で目覚めて / noctchill

 

お題は「ノクチル」。ユニットがお題になっているときはできるだけそのユニットを包括的にとらえて、それぞれのユニットが持つ世界観に即した言葉と情景を使いたいという超個人的なこだわりがあり、今回の歌もそれに則っている。ただ、ノクチルの場合は「さよなら、透明だった僕たち(チルアウト・ノクチルカ)」という、この観点からしても極めて完成度の高いキャッチコピーがあり*1、これをどう咀嚼するかという点に悩んだ。結局は、このキャッチコピーをモチーフにしつつ、同じ意味内容を別の視点から描いたアンサーソング的なものにしたいという形に落ち着いた。

まず「チルアウト・ノクチルカ」を踏まえて、舞台設定は海にした*2。「ありがとう」は「さよなら」に応答する投げかけであり、「透明だった僕たち」を「スノードームに護られた日々」で言い換えている。この部分を詳しく述べると、「透明だった僕たち」の自分なりの解釈に合わせて、「スノードーム」を、色のない、硝子に守られた、海のようでありながら閉鎖された平和な世界、ノクチルのメンバーにとってみれば幼馴染が未分化なまま4人で仲良く過ごし、それが永遠に脅かされない日々のことを表す比喩として使った。「ありがとう」という言葉には、そうした日々が彼女らの中で相対化され、惜別すべき対象としてとらえられるようになった、という意味も込めたつもりだ。下の句では、その日々がノクチルとしての活動によって変わっていくーー比喩に頼るならば、硝子の外にある本当の海へと漕ぎ出す、つまり新しい一日が始まり、真っ白な世界から一転して日の出によって色付いてゆく海に、彼女らが投げ出されていくーーさまを伝えたかった。「目覚めて」の部分には、浜辺に打ち上げられ、終わらない日常(浅倉透の言葉を借りれば「長すぎる人生」)とも言える「夢」から覚めた情景を打ち出す意図があったのだが、少々言葉足らずだったと思う。今回はこの歌のみ入賞を逃したが、出来すぎた公式のキャッチコピーをある程度翻訳でき*3、かつ自分としては納得の行く比喩で書けたので、実は個人的には4首の中で一番のお気に入り。情景のイメージはまさに以下の sSSR【がんばれ! ノロマ号】そのもの。

 

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<2>

先代の居候です。覚えてる? 三〇二号の窓は西向き / 桑山千雪

 

お題となるテーマは「故郷」。私は大学に進学する際に上京したのだが、元から東京に住んでいた友達が、よく夏休みなんかには「俺も故郷を持って帰省とかしたい」と言っていたのに対して「東京の中にも懐かしいと思える場所はきっとあって、それも故郷じゃないかな」と返したのを思い出し*4、ただ単に上京の叙情を表すのではなく、283プロのメンバーにとっての「東京における故郷」を主題に据えたいと考えた。この観点で人選をするならば、現在住んでいる寮がいずれ故郷になるだろうという理由で寮組が有力となり、その中では既に東京の中で引っ越しを経験している桑山千雪が、時間軸の広さも踏まえてベストだと思った。

この歌で描いている情景は、街を歩いていたらふと寮に引っ越す前に住んでいたアパートを目にした桑山千雪が、自分の過去と、現在そこに住んでいる人間に思いを馳せている一瞬*5。「先代の居候」には、彼女なら住居の擬人化や、こういう言葉遣いをしそうだというイメージと、住居=場所は常に動かずそこにあり、人間が入れ替わっていくことで初めてその場の歴史が築かれていく、更にはいつか彼女自身も寮を出ていく立場=居候である、というニュアンスを込めた。下の句では、上の句だけでは過去の住居に宛てていると判断するだけの情報が足りないと思ったので、それを補完するとともに、住んだことがなければ分からない情報、つまり外観だけで何号室なのか、また窓がどちらの方角を向いているのかが分かる、ということを、しつこすぎないディテールで表現しようと思っていた。

 

<3>

am のあと I が来たっていいんだね そのしなやかさと歩む、わたしは / 福丸小糸

 

お題の技法は倒置法。シャニマスきっての倒置法の使い手である浅倉透を敢えて主体に置かず、彼女から影響を受けた誰かが倒置法を使うという構成が最初に思いついたアイデアだった。そうであれば福丸小糸がよさそうで、彼女の勤勉なイメージから、(またお題を踏まえて、日本語と語順が異なる言語的構造から、)受験英語の語句整序問題を題に取っても面白いと思い、この形になった*6。GRAD や Landing Point, その他プロデュースカードのコミュの中で、福丸小糸は一貫して自身の在り方や居場所について悩んでおり、それらのコミュ群に対する私の解釈を要約すると、「目標とする自分があることは素晴らしいことだが、しかしそれは現在の自分に瑕疵があることを意味するわけではない。目標に向かいつつ、現在の自分を肯定することが、誰かの勇気に繋がることもある」という解決に一応は至ったのだと思っている。

そのあたりの彼女の成長の経緯を踏まえ、「am のあと I が来たっていいんだね」、つまり現在の自分を固着させず疑問形に置いても構わない*7、また自己という存在の置き場所はもっと柔軟でもいい、ということ、言い換えれば福丸小糸にとって恐らくそのとき最も必要だった「しなやかさ」を、アイドルとしての活動を通じたノクチルのメンバーとの一層深い関わりと、自身の挑戦と気付きの中で理解していく、というのが主題だった。どうでもいいけれど、「歩む」の部分の動詞に何を入れるかは悩んでいて、最後には「I'm」の読みに近いからという理由でこれを採用した。なんかもう少しフックのある単語でも良かったんじゃないかな~と思っている。

 

<4>

ときどきは妬ましいのかも人類の正夢めいた君のたましい / 八宮めぐる

 

こちらは自由詠。今回の4首の中ではたぶん最も「読んでそのまま」な歌だと思う。想定していた目線は八宮めぐるのクラスメイト、あるいはその他の関係で近い距離にいる人間で、その中でも彼女に対して複雑な感情を抱いている人間からのもの。出発点としては、マイナスの意味を含んだ言葉もどうにかして歌の中で使いたいなと思ったことがある。そのうえで、理屈の上では圧倒的な眩しさ、正しさを持つ存在に、どう人間らしい感情をぶつけてみようか、というアプローチを取ろうと思ったことから、八宮めぐるとその周囲の人間の関係性、という構図が決まった。彼女のあまりに眩しい在り方をどう表現するかということについては紆余曲折あったが*8、多少大袈裟になってもいいから、少なくとも作中主体の目線からはこの世にこれ以上のものはない、ということを示すべく「人類の正夢めいた君のたましい」にたどり着いた*9。そのうえで上の句をどういう形にしようかと思案したが、使いたかった否定的な言葉を無遠慮に入れると角が立つので、「たましい」に引っ掛けて「妬ましい」が、真剣になりすぎず、語の印象を和らげられて嵌りやすいかな、と思った次第*10

自分の頭の中では、完全に非アイドルの目線から見た八宮めぐるのことを考えていたので、通話時のチャットにあった、「イルミネーションスターズのメンバーが作中主体では?」という投げかけは自分としては新鮮で面白いし、大いにアリな解釈だなと思った。特に彼女に絆されかけている頃の風野灯織がこういった感情を抱いていても全く不思議ではないし、葛藤を経た時期があったと思うと、彼女らの関係性の見方に一層深みが出るのかなと感じた。

 

以上4首の解題。同時期に浅倉透と樋口円香の2人に関する4首も作っており、結構苦戦したので、これらに関してもそのうち書きたいと思う。

 

追記:今回は誰がどの歌に投票したのかがわかる制度だったので恐る恐る覗いてみたところ、貴重な1位票の3/4を俺に投票してくれた神がいたことが発覚し、マジでありがてぇ~ってなってます。そういう人のおかげで続けられる訳ですよ。

 

 

*1:Landing Point編である種の結実を迎える彼女たちの変化は、まさにこのキャッチコピーが指し示すものだと思っている

*2:Noctiluca scintillans は夜光虫、海洋性のプランクトンのこと

*3:シャニマスの公式と戦っている瞬間が一番楽しい

*4:その友達はピンと来ていないようだった

*5:私の実体験及び、リプライパーティーでの「ひび」に関する彼女の話を踏まえている

*6:結局それらの構想は最終的な形には跳ねてこなかったのだが

*7:この部分は、英文法上の倒置法ではないので若干の混乱を招いたかもしれない

*8:八宮めぐるが出てくるコミュを読むたびに俺は、俺の心は……

*9:スピッツの『正夢』を偶然聴いていて思い付いた。スーパー単純マン。

*10:ダジャレとも言う