自由帳

Ask perfection of a quite imperfect world.

14/11/2021: シャニマス短歌 11月号

最近作ったものの幾つかについて書く。

  1. 再訪の約束果たし舞い降りる銀河高原麦酒の馴鹿 / イルミネーションスターズ
  2. 窓辺にて背中をさらす染指草 葉に霧浴びて紅が和らぐ / 樋口円香 幽谷霧子
  3. 贋作(Replica)に溺れる都市の片隅で真白き画布を撫でた教室 / 樋口円香
  4. 大げさな記号が導く4C2 去年の今頃どうしてたっけ / 福丸小糸
  5. 伸ばす手が翳りとともに知ってゆく あなたの光、わたしの灯 / 風野灯織

 

<1>

再訪の約束果たし舞い降りる銀河高原麦酒の馴鹿 / イルミネーションスターズ

 

モチーフとなるコミュは「【スタァライトショウタイム】八宮めぐる」。未読の方のために簡単に説明すると、三人で星の見える高原に旅行に行き、展望台から星を見て三人のアイドルとしての未来を語り、その成功を誓う話である(マジで身も蓋もない説明)。コミュのエッセンスとしては、彼女らが星の見える場所へ旅行し、三人の未来に思いを馳せるというところで、短歌にするにあたって後述の私の妄想を重ね合わせたもの。

銀河高原ビールは以下のサイトの通り、水色を基調とし、馴鹿(トナカイ)の絵をあしらった美麗なパッケージをしている。

gingakogenbeer.com

銀河を思わせる淡い水色、ヘーフェ・ヴァイツェン白ビールが持つ金色に近い黄色、そしてその名前とで、私が持っているイルミネーションスターズのイメージに近いところがあると思い、第二のモチーフに採用した。妄想の内容としては、旅行の戻りにお土産屋に立ち寄った三人が飲み物コーナーでこの製品を見つけ、そのパッケージに目を引かれたものの、酒類なので残念ながら買うことはできないと知る。それでも、昨夜の会話を念頭に置きながら、20歳になったらまたここに来て、このビールを飲もう、と約束をする、というものである。一応この妄想には全く根拠がないわけではなく、「【シュカのまにまに】八宮めぐる」*1では、ロケの休憩時の一幕でプロデューサーがビールを飲みたいという内容の選択肢を選ぶと、仕事中だと咎められたのちに、(めぐるが)成人したら一緒にビールを飲もう、という約束をする会話が発生し、ここの流れも引いている。八宮めぐるは、現在の人間関係が五年経ってもそのまま続いていると疑いなく信じることのできる人間であるわけだ。前置きが長くなったが、この三人での約束が果たされ、再び同じ場所を訪れ、同じ星空を見て銀河高原ビールを飲む、という内容をなんとか短歌の形に収めようとしたのが掲題である。漢字を多めにした、特にトナカイを片仮名で書かなかったのは、彼女らが大人になったことを暗示したかったという側面もある。それはそれとして、トナカイが冬の星空から降りてくる情景は二次創作という要素を横に置いても個人的に好きなものである(実際、歌会で同様の感想を頂けた。ありがとうございました)。

 

<2>

窓辺にて背中をさらす染指草 葉に霧浴びて紅が和らぐ / 樋口円香 幽谷霧子

 

モチーフは二人のホーム会話。内容は以下の通り。

樋口円香「私も植物に水くらいやるけど ……手出し、しない方がいい?」

幽谷霧子「ふふ…… あげちゃいけない人は…… いないよ……」

 

これだけ。これだけである。これだけなのだが、私はこの会話が本当に好きで、なぜなら二人の性格、ものの感じ方、ひいては関係までが凝縮されていると思うからだ。何事にも「資格」や「身の程」を行為の先に考えてしまう性質を持ち、花に水をやる優しさを持ち合わせていながら(かつ朝コミュでは花の面倒を見ている人間を円香が認識しているという内容が取り上げられている)、「やる」という、間違ってはいないがぶっきらぼうな表現をする*2円香に対し、受容と博愛を以て返す霧子。特に「あげる」と、水やりの表現を円香のそれから変えることで、先述の部分に注意を促していると感じた。このやり取りを何とか短歌に落とし込みたい、と考えて作ったもの。残念ながら入賞は逃したものの、ある程度は形にできたので良しとする。

染指草は「ほうせんか」と読み、その字の通り中国では爪を赤色に染めるために使われた。また、花言葉は「私に触れないで」「心を開く」とある。正直、花言葉なんていうのはどうとでもとらえられるような意味が多かったり、ほかの花と重複したり、まあなんか結局恋愛関係のなにかでしょ、と個人的に思っていて、自分の作歌や解釈に積極的には取り入れないようにしているのだが、これに関しては、花としての性質やギリシャ神話の由来もあるようで、ちょっと特別かなと思い採用した。その色と花言葉から分かるように、染指草は言うまでもなく樋口円香の譬えであって、上の句と下の句がそれぞれ円香と霧子の発話に対応し、円香の心が解けていく様を表している。「葉に霧浴びて」は水やりのことで、それを通じてビビッドな紅、つまり円香の頑なな心が和らいだことを表したかったのだが、伝わったのだろうか……?ちなみに小ネタとしては「窓」は「円香」のマドであり、「霧」は「霧子」のキリである。どうでもいいですね。

 

<3>

贋作(Replica)に溺れる都市の片隅で真白き画布を撫でた教室 / 樋口円香

 

また樋口か。でもこれは誕生日企画で作ったものなので仕方ない。イメージは小糸、果穂、チョコ先輩*3といった「そういう子たち」に、「ああいう」関わり方をする円香先輩を、「気持ちわる~」と「べつにいいんじゃない~?」の境界線上で表してみたいなと思った次第。世の中の悪いこと、汚いことを知っている(つもり)の円香は、それを知らない純粋なもの、無垢なものに価値を見出し、それがそのままであってほしい、彼女らが汚されたり傷つけられたりしてほしくない、と思っていると私は解釈している。嘘や偽りを嫌う円香は、それに満ち溢れている世界にうんざりしており、正しいもの、純粋なものを匿おうとする。この匿おうとする対象は他人だけではなく、彼女自身の心もしかりであろう、と私は思う。「溺れる」の選択は、「【カラカラカラ】樋口円香」のホーム台詞から引っ張ってきている。都市と学校(教室)、贋作と(色が塗られる前の)画布をそれぞれ対置したことによって、純粋なものを保存しておきたいという円香の信条が伝わっていれば幸いである。厳密には贋作とレプリカ(=複製)は違うものなのだが、円香のまだ世間を知り切っていない感じに符合すると思い敢えてこの形とした。「撫でた」は、ほかの部分がニュートラルな印象を与えていると思ったので、「俺がお前を守る!」的な「気持ちわる~」ポイントを稼ごうとして入れた。

余談だが、この歌を作っている最中に、高校の国語の教師が「学校っていうのは社会や世の中のルールみたいなものから隔絶された自由な空間だ。君らを守っているとも言える。その中にいる限りは、外ではできないかもしれないようなことをどうかやってほしい」に近いようなことを言っていたことを思い出した。

 

<4>

大げさな記号が導く4C2 去年の今頃どうしてたっけ / 福丸小糸

 

これは福丸小糸誕生日企画で出したもの。上の樋口のものもそうだが、誕生日企画はその企画の特性上、フィードバックを頂いたり、他の方の制作経緯を伺う機会は少なく(それでも伝えてくれる人がいらっしゃり大変ありがたいです。少ないことが問題だという意図はありません)、できるだけこういう場所に書きあっていければと思う。

"nCk" は、組合せ、すなわち相異なる幾つかの要素の集まりから幾つかの要素を重複無く選び出す方法を示す数学記号であり、数学A*4、つまり高校一年生のカリキュラムで学習する内容である。"4C2" は「4つの相異なるものから2つの要素を選ぶ方法の数」であり、これを使ってノクチルの幼馴染四人組から二人組を作ることを示したいという意図があった。また、小糸はほかの三人と別の中学に通っており、(そこはおそらく中高一貫校であったために*5)学習カリキュラムが先に進んでいて、高校一年生の小糸は同じ内容を再度学習していることが、W.I.N.G. のコミュで明示されている。ということで、小糸にとって、通常高校一年時にある数学Aの組み合わせ論の学習は二周目ということになる。これらを前提としたうえで、中学時代の小糸と、現在の小糸は、同じ組み合わせ論の学習をどのように見るだろうか?というのが作歌の動機である。正直それ以上でも以下でもないというところだが、中三から高一にかけての小糸の変化はかなり想像の余地のある部分だと考えていて、ここの掘り下げができたら楽しいと思う。

ちなみに、「大げさな記号」とはnCkを計算するにあたって用いる、階乗を示す記号(!)を指している。実際大した計算はしないので、小糸の感性なら、こういう感じ方になるんじゃないかな、と想像した次第。4C2は「よんしーに」でも「フォーシーツー」でもどちらでも音的には嵌るうえ、どちらも読み方として聞いたことがあるので、敢えてルビなしとした。

 

<5>

伸ばす手が翳りとともに知ってゆく あなたの光、わたしの灯 / 風野灯織

 

前回のプロト歌会に提出したもの。

モチーフはお題に沿ってイラスト、【伸ばす手に乗せるのは】と【宝石色のしおり】であり、その裏には彼女のソロ曲である『スローモーション』がある。別途要点となる歌詞をイラストの下に引用する。なお、歌会ではイラストをモチーフとして開示したものの、モチーフ数が過剰になると思い『スローモーション』には触れなかった。

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【伸ばす手に乗せるのは】

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【宝石色のしおり】

いや~~~もうどちらも最高のイラストですね~~~。

もう何も言うことはありません。言うとすべてが蛇足になります。勝手な解釈ですが、この二枚は色味が似ている気がするので、表裏一体で考えてもいいんじゃないかと思ってます。

次は『スローモーション』の歌詞を引用する。

初めての私になっていく

あの日から 少しずつ

キミの心を明るくする

小さな灯(あか)りになれたらいいな

退屈だった日々 忘れて

振り返れば こんなに遠くまで来てたんだね

一人で平気だと思ってたよ

でも最近じゃ 帰り道すら 寂しくなるの

見守っていてくれたんだよね

最初から ずっとずっと

だから私は来られたんだ ここまで

ヒカリを追いかけていた

 

本当にザックリとした補足をすると、【伸ばす手に乗せるのは】のコミュは、プロデューサーが灯織の変化と成長を実感する内容であり、【宝石色のしおり】は、これが配布されたシナリオイベント『くもりガラスの銀曜日』と併せて、イルミネーションスターズのメンバーの間でお互いの出会った頃のこと、これまでの足跡を振り返りながらよりお互いのことを知っていく、だけどまだまだ知らないこともあるからもっと知っていきたいね、とする内容である(要約するとマジでよさが1mmも伝わらねえ)。

ということで以上を踏まえ、「伸ばす手が」の部分で灯織の変化と成長、一部分の言い換えとしては、他者のことをより深く知りたいと思い、関係を築こうとすることを伝えたかった。『スローモーション』の歌詞を踏まえ、「あなたの光」はイルミネーションスターズの仲間である真乃とめぐるのこと、「わたしの灯」は灯織自身のことである。彼女が変化するにつれ、イルミネーションスターズの仲間のことを知るとともに、灯織自身のことも知っていく、つまり誰かの心を明るくする存在になりたいと願うことを自覚する、というのが意味の上では骨子となる。

「翳りとともに」の部分は、他者や自己のことを知るという行為は決して明るい部分だけではないことを示している。具体的に言えば、『Catch the Shiny Tail』における真乃の悩みや、『star n dew by me』で描かれためぐるの極めて繊細な部分のことを意図しており、それらも含めて彼女たちを大切にしたい、という灯織の姿勢である。同時に、『スローモーション』の「一人で平気だと思ってたよ でも最近じゃ 帰り道すら 寂しくなるの」の箇所に表れている通り、誰かと共に在ることを通じて、これまで感じていなかったような孤独を感じるようになった灯織の心の動きも、その中にはあると思う。ちなみに「翳り」「光」「灯」は押韻も意識している。「翳り」というマイナスイメージを伴う言葉を入れるかどうかは最後まで悩んだが、伸ばした手の動きのイメージと、この押韻を加味してそのままとした。

まあ、正直ご理解の通り灯織担当としての想いが迸りすぎてしまいなんだか全体としては詰め込みすぎの消化不良、短歌としてはどうなんだ?という形になってしまったが、今回のような言いたいことが多すぎて文字数が全く足りない場合や、説明に終始して詩情も何もあったもんじゃなくなってしまう場合の昇華の仕方は今後の課題とする。

 

完全に蛇足だが、引用した『スローモーション』の歌詞は、灯織目線では Mr. Children の曲である『NOT FOUND』の「自分だって思ってた人格(ひと)が また違う顔を見せるよ ねぇ それって君のせいかなぁ」という歌詞に重なる部分がある気がする。こういうのに本当に弱い。プロデューサーの「おすすめ」の曲*6の中にこの曲が入っていたら?というような妄想も楽しい。

 

以上、最近作った五首の、ほとんど自己満足のような補足説明でした。毎回本当に楽しくやらせていただいてます。振り返ってみてなんだかどれも「リクツ」で作りすぎな気がしてならないので、次回はもっとフィーリングに寄せてみようかと思ってます。

 

 

*1:こいついつも【シュカのまにまに】の話してんな

*2:小糸や果穂に対するそれと重なる部分があるとは思いませんか?

*3:あとあさひも?これはちょっと分からない

*4:いまでもこうやって言うんですかね?

*5:自身の経験に基づけば、中高一貫校は中学の二年間で中学の学習範囲を終え、三年時に高校一年の学習内容を先取りする

*6:朝コミュ参照