自由帳

Ask perfection of a quite imperfect world.

09/10/2021: シャニマス短歌

つい1か月と少し前に手を出したばかりだが、シャニマス短歌がおもしろい。そもそもとして偏執的なまでにプレイヤーにテキストを「読ませる」ことに特化したシャニマスというゲームには、豊穣すぎるほどに想像と洞察の余地がある。言おうと思えば幾らでも言いたいことが出てくるようなその肥えた大地から、絞りに絞った文字数で拙いながらに伝えたいことを表現するという行為が、何かあれば言葉に頼る我々のような人間にとって、考えてみればおもしろくないはずがない。世の中の些事を忘れ、その世界のことのみを頭に浮かべ、ある決められた形に落とし込んでいく時間を至福と呼ばずに何と呼ぼうか。

 

さて、幸いなことにこの同好の士は多く、またそのうち幾許かの人々が自身の作ったものを振り返るブログやら場所を持っていることに触発され、自分もそのときにどういうことを考えていたか記録したい衝動に苛まれたので、ここで似たようなことをしたいと思う。嘘、自分の考えたことを自分勝手にくっちゃべることはめちゃくちゃ気持ちがいいことに気付いたのでやってみようと思っただけ。この年にもなると、恥とか自意識とかの、かつて掃いて捨てるほど持っていたそれらが嘘のように薄れていき、なんだったら会社の後輩にかますよりかは電子の海に放つ方が100倍マシだろうという開き直りさえ生まれてきた。という訳で手始めとして、(感想を頂いた人の反響は申し訳なくも別にして)自分が気に入っている以下6首に関してやってみようと思う。

 

1.青春と朱夏のあわいが融ける夜レモンアイスに祭火揺れる/八宮めぐる

2.銀色の刃を夜半に研くとき下弦の月は玻璃の耀き/緋田美琴

3.思うより密度のあるその弾丸が俺のハートに中ったサンデー/園田智代子

4.アカとアオけして交ざらぬなんてウソ捕まえてみて紫焔いまだけ/田中摩美々

5.第三回お泊り会の夕餉前手に取るトマトが違って花笑む/イルミネーションスターズ

6.中華鍋ふところ深くあるゆえにあいを分け合うさだめの者よ/月岡恋鐘

 

<1>

青春と朱夏のあわいが融ける夜レモンアイスに祭火揺れる/八宮めぐる

 

初参加の歌会で入賞させて頂いたもの。一部の方には激賞頂き大変ありがたかったです。

下敷きはもちろん、言葉を借りている通り『シュカのまにまに』なのだが、このカードにあるコミュでは別にお祭りでアイスを食べる描写はなく、めぐるのコミュを全体的に参照して作っている。この点はもうめぐるの各コミュを読んでいる人向けでしかないのだが、めぐるのコミュの多くに通底する、シャニP視点での青春への懐古と憧憬、めぐるを触媒として思い起こされる(俺にはない)青春の思い出的なものや、二人の言葉や間の作り方から醸成される雰囲気というのがとても好きで、これを自分の表現で再現できないか、というのが動機。普段自身とアイドルたちの間には、彼女らに寄り添うもののなんだかんだ一線を引いているシャニPも、めぐると関わっているときには(自身の心中で)それを少し緩めているような気がしていて、特に『小さな夜のトロイメライ』ではそれが顕著である。その感覚を前半、青春と朱夏の対比でやや硬めに出した後、それがほどけて後半の世界が揺らめく情景へと比較的スムーズに持っていくことができたと感じており、自分としては成功の部類に入ると思う。

歌会では青春、朱夏、レモンアイスの青赤黄色の色彩が揃っていて良い、と評して頂いたのだが、実はこれは結果オーライであって、青春/朱夏は意味内容(若者の時代と、その後)から入っていて色のイメージはあまり持っておらず、どちらかと言うとレモンアイスと祭火(提灯が出す光多めの赤色)の想定だったが、言われてみればそうだなと思った。人に読んでもらう効用の一つだと思うし、今後は色彩にも気を遣って作っていければいいと感じた。

 

<2>

銀色の刃を夜半に研くとき下弦の月は玻璃の耀き/緋田美琴

 

確かこのときのお題は月だったはず。個人的に緋田美琴には下弦の月のイメージが付きまとっていたので、お題を聞いたときにこの骨子で行こうと思った(当時ルールを知らなかったので歌会には提出できなかったが……)。下弦の月から連想される、いずれ消えていく運命を知る者に宿る美しさと切実さ。彼女の場合はそこに大きな危うさも孕んでおり、これをどう表現するか苦心した。そもそも「下弦の月」という言葉にやや手垢が付きすぎている感覚があった上に、やや直接的すぎないか?という疑念もあったので、他の言い方を模索したがなかなかうまくいかなかった。こういう言葉の距離感というかグリップ感(伝われ)ってどの辺りがイイ感じなのか分かっていないし、そもそもの選択肢となる語彙力もあまり足りていないと思うので勉強っす。一応 "De-Crescent" って使えるかなと思ったものの、結局下手な句跨りにならざるを得ず断念した。前半部分では身を削って夜な夜な鍛錬に励む彼女を、後半部分ではその危うさと儚さを表現したいと思っていて、締めの「耀き」はSHHisのキャッチコピーである「耀いて、スパンコール・シャンデリア」から引っ張ってきている。言葉遣いが大袈裟というかちょっと芝居がかっているのはそれも緋田美琴っぽいか、ということで意図的にやった。皆様に伝わっているかはわからないが。

ちなみに個人的な参照元としては、柴咲コウの『甘いさきくさ。』の以下の一節がある。「背を向ける三日月」とは恐らく二十六夜月のことであり、消えていく存在としての月に思いを馳せる心象はここからきている。

 

背を向ける三日月は だまされる安心に気づいてしまった だからそっぽ向くのだろう

 

<3>

思うより密度のあるその弾丸が俺のハートに中ったサンデー/園田智代子

 

言いたいことがうまく伝わらなかったのか、自分としては気に入っている割に読んでくださった方々から反響がなかったもの(別に全然大丈夫なのですが)。「普通」を自称する園田智代子の意外性、例えばかなりの戦略家であり、案外理屈っぽかったり、ここ一番での精神面での強さがあったり等々、そういうところに気が付いて知らぬ間に彼女のことを好きになってしまっていることをファンの視点から表したかった。弾丸は銀でコーティングされていてチョコレートへの連想もなくもないかな、ということで「思うより密度のあるその弾丸」としたが、ここはもっといい表現、というより明確にそれと伝わる言い方がほかにがあったかなと思う。「サンデー」は彼女のソロ曲である『チョコデート・サンデー』から拝借している。正直手を抜いた。

自分としても園田智代子はゲーム開始時には全くと言っていいほどノーマークだったのだが、もはや見逃せない存在になっている。これは妄想だけど、園田智代子ファンボーイズの一人称は「俺」が多数派かつちょっと公言するの恥ずかしいなみたいなところがあるんじゃないかと思っている。クラスメイトなんて特に。

 

<4>

アカとアオけして交ざらぬなんてウソ捕まえてみて紫焔いまだけ/田中摩美々

 

摩美々の本質的な個性のひとつである二面性(めっちゃくちゃザックリ言うと、悪い子/良い子の側面)と、一筋縄ではいかない感じを、何とか彼女の外形的な個性に結び付けた比喩にできないかと思って作成。紫って赤と青からですよねっていう小学生みたいな発想から出発した割に、思いのほか丸く収まってくれたので正直かなり気に入っている。とは言え、内容や表現はかなり『誰ソ彼アイデンティティー』に依存してしまっているので、また違う角度と表現でこの主題には挑戦したいと思う。

当初は、赤・青・嘘を全て漢字にしていたが、前半から後半への切り返しのためにカタカナで統一するように変更し、その観点で後半では「炎」ではなく「焔」を使っている。摩美々の強さというか、モチベーションの発生を炎で表すのが果たして最善手なのかというのはまだ検討の余地があるし、そこが次作のとっかかりかもしれない。あとは「斜め」とか「夜」とかのキーワードからの連想か。いや~でも『誰ソ彼アイデンティティー』の完成度が高すぎて我々にはもうすることない説がある…… この曲はシャニソロ曲の中で多分一番好き。

 

<5>

第三回お泊り会の夕餉前手に取るトマトが違って花笑む/イルミネーションスターズ

 

イルミネーションスターズのお泊り会が少なくとも39回は開催されているという事実は相当ヤバい(『青のReflection』より)。ヤバいが、それはそれとして開催初期の感じってどんなんだったんだろう、という疑問が出発点。多分、最初にやろうって言い出したのはめぐるで、その流れと、かつ家庭もそういった行事にオープンだということもあり初回は八宮家だろう。当初は恐らく今ほどにユニットとしての仕事が多かった訳ではなく、日程は灯織の家庭内調整を除けばスムーズに決まったと思われる。夕飯はめぐるのご両親がご馳走を用意してくれていたのではないだろうか。初回があまりにも楽しかったので早速来週もやりたいということになり、真乃と灯織は連続して八宮家で開催させてもらうのは流石にどうか、と思う一方で、友達を家に泊まりで招いた経験もないため少々戸惑うが、ここで前に出ることができるのは結成初期の状況を想像すれば真乃だろう。かくして櫻木家で第二回が開催され、第三回は満を持して風野家、以降このローテーションが突発的事態を除いて確立されることとなる(ホントか?)。櫻木家の描写が本作では意外にも乏しいので難しいが、櫻木家に畳の敷かれた客間があったなら私は嬉しい。三人で畳に布団を敷いて寝てその新鮮さに驚いていたりしてほしい。夕食も八宮家と比較すると和食寄りで、食材や調理方法に関して真乃の母親に色々と質問をしたりしながらわいわいとした食卓になるのだろう。そうした経緯を踏まえての第三回@風野家である。ここまですべてが妄想だが正直掴み切れていない実感がある。健全な女学生たちのお泊り会の解像度って何したら上がりますか?

きっと灯織は、どうしたら成功した過去二回の会のようにできるだろうかと色々思案するだろう。彼女の両親は平日仕事が忙しく、帰りが遅いことが示唆されているので、休日は両親の貴重な休息を邪魔してしまうという彼女の配慮から、金曜のレッスン後、またはその日がオフであれば放課後に開催されたのかもしれない。料理は灯織が得意なこともあり、自分が二人をもてなしたいと言い、それが自分が二人に対して出来ることだと主張するだろうが、まあ当然三人でやろうという流れになり説得され、夕暮れ時に買い物に出かける。そうしてようやくこの歌の始まりにたどり着く訳です。ちなみに灯織の粉物マスター伝説もここから始まったと私は睨んでいる。

「夕」というお題からここまで割と真っすぐ来てしまい前半はすぐに固まったが、悩んだのは後半で、灯織が買い物に慣れている様子や、イルミネのイベコミュで度々主題になっている「お互いの違い/知らないところを、知っていく/理解しあっていく喜び」みたいなものをうまく表現できればいいなと思って現状に落ち着いたが、特に「花笑む」はめぐるのサポートカードからそのまま拝借した上に、トマトという選択もそうだが、この単語でなければいけないという必然性を欠くため、まだ改善の余地があった、というか肝心なところで手を抜いてしまったなと感じている。

 

<6>

中華鍋ふところ深くあるゆえにあいを分け合うさだめの者よ/月岡恋鐘

 

『アイムベリーベリーソーリー』を読んで衝動的に作ったもの。同作は構成の複雑さや、突き抜けない筋立てのせいか、見る限りネット上ではそこまで反響がある訳ではないようだが、個人的には五指に入る出来だと思う。そこで受けた感動をそのままに、他のコミュでも再三語られている、恋鐘が持つ生まれつきのアイドル性をどうにか比喩に組み込めないかと考えていた。で、そういえば中華鍋って一人用のメシを作るためには絶対使わないよな、と思い立ち半ば強引に結び付けてしまった。正直アイドルを中華鍋に例えるのってどうなんですかと思わなくもないが、まあこがたんだし、らしくていいでしょと思っている。「さだめ」は「運命」を使うと深刻さが出てしまう一方で、「定め」だと味気ないし堅すぎる気がしたのでやむを得ず開いた。どうにか彼女のナチュラルボーンアイドルネス(英語正しいですか?)を「さだめ」とかの直接的な言葉を使わずに表現できれば、と悩んでいたが結局思いつかなかったというのが正直なところ。あとは、「ふところ」「ゆえに」「あい」といったように漢字を開きまくっているので、ここら辺のバランス調整もこれでよかったのだろうかという反省がある。

 

以上今回はこんな感じ。

振り返ってみると、お題から連想ゲームを行って描きたいシチュエーションや主題を想像し、それを文字に落とし込んでいく、というアプローチが大半な訳だが、ほかの人を見ているともちろん違うアプローチがあり、またこの手法に依存しているとどうしても既存のコミュの内側でしか歌を作れず、本来目指す境地には至れないと思っているので、積極的にほかの人のアプローチを学び取っていきたい。あとは、元ネタがある言葉に軽々しく乗っかりがちなのも我慢しないといけない。