自由帳

Ask perfection of a quite imperfect world.

06/06/2021: おぼえていますか

おそらく、あなたも私も、小学校に1,000回以上は通っただろう。私は中高一貫の学校に通っていたので、私について言えば、中高に関しても同様だろう。しかし、途中の転校などの事情は置いておいて、1,000回も同じ空間に居合わせながら、顔と名前が一致しない人、卒業してから一度もその人のことを思い出していない人が、誰にでもきっといる。思い出すことさえもままならない彼らを、それ以外の人々と分かつものは何なのだろうか。決してそりが合わなかったという話ではないはずで、何故ならそりが合わなかったのならそりが合わなかった人間として記憶される。とんでもなく無口で、自己主張に乏しい人たちのことだって私は覚えているのに、彼らがどういう風に生まれてくるのかは不思議ですらある。ほぼ同じ時代、ほぼ同じ場所に生まれ、奇跡などという言葉では物足りないような確率で同じ環境を共有し、神がそこまでお膳立てしてくれたのに、いともたやすくそれをフイにする我々。考えるまでもなく、こんなことが毎時毎分起こっている。神が用意した据え膳を食ってやる義理はどこにもないけれど、我々の怠惰なのか何なのか、あらゆる物事の可能性は常に潰え、常に再生している。どんなに手を尽くしても、すべての可能性の先を目撃することはできないし、その可能性が我々にとって有益なものである、あるいはそれがなにかをもたらすものである保証はどこにもなくて、悔やむ必要もない。ただただ、残骸がそこら中に転がるという現象があるだけ。あなたがたは私のことを覚えているだろうか。

 

一方で、一生に一度、それも数時間しか会っていないのに、忘れられていない人たちがいる。この間、そういう人の夢を見た。その人は確か、当時同じ大学の哲学科の院生で、やむなく仕事を探していたのだと思う。多分私はその頃、学部の2年生か3年生で、何となく霞が関で働くことを考えていたはずだ。その人とは、とある主要官庁の説明会兼座談会のようなもので一緒になった。いわゆる就職イベントとしては特に目立った何かというわけではなく、学校近くの喫茶店のような場所の一部を借りて、仕事の話を聞かせてもらうような催しだったと思う。ようなようなと繰り返していることから分かる通り、もはやそちらの方の内容は何も覚えていない。帰りの電車の中、イベントに集まっていた10人弱の学生は車両内のバラバラの位置に別れて、その人は私の隣で吊革を掴んでいた。突然、「どうだったよ?」と訊かれた。つい、その軽い問いかけに対して、無防備に「つまんなかったっすね」と、こちらも軽く返してしまった。すると同意が返ってきた。もう一つ、彼は、複数の学生たちが、ある別の学生を軽侮していたような雰囲気を感じていたと言った。私はなんとなくそんな雰囲気を感じていたものの、そこまで確信のあるものではなかったので「そうかもしれないですね」だったか、なんにせよ曖昧な言葉を返した。それでも、私がそういう雰囲気を感じていたのは既に気取られていたようだった。そうして私たちは下北沢駅で降車し、安い海鮮居酒屋で焼酎をあおっていた。覚えていた話題としては、不意に漏れ出す他人の他人に対する軽侮を察知してしまうと心が荒むだとか、井上陽水の書く歌詞は何を言っているのか全く分からないが、生活のふとした瞬間に何を言わんとしているか何となく分かる瞬間があるような気がして怖くなるだとか、したくもない仕事を求めることのどうしようもなさだとか。あと、JR東海飯田線下山村駅伊那上郷駅の間は急勾配のため、かなり迂回したルートになっているため、いったん片方の駅で降車し、他方の駅までの間を走り同じ電車に再度乗るという、「下山ダッシュ」なる、何が目的なのかよくわからない行為の存在を知らされた。多分、機動警察パトレイバーの話題から、その作者であるゆうきまさみの話になったか何かだったと思う。ちなみに、私は同年の休暇中に実際にこの下山ダッシュを敢行した。彼は別れ際に「君は生き辛い人間だと思うけれど、お互い死なないように生きよう」といったようなことだけを言い残してどこかに行ってしまった。私は、(そしておそらく彼も)連絡先を交換するのも違うだろうと思い、それきりである。だから何だという話だが、その人がそれからどうなったのかは、夢を見てしまったがゆえに少し気になる。

他にも、思い返してみれば、高知県足摺岬に一人で旅行に行き、岬から星を眺めていたら、大型犬を散歩に連れた老婦人が話しかけてきて、なんだかんだ身の上を話してしまったら「故郷のためになにかをしたいと心から思わない限りは、そこに帰るべきではない」だったか、そんなことを言われた記憶がある。こんなふうに何かを言われたわけではないが、人生で数時間、あるいはそれ未満しか時間を共にしていないにも関わらず、忘れられていない人がいる。それでも、彼らはおそらく私のことを覚えていないだろう。

 

本稿をどうやって〆たらいいのかわからないので、『愛・おぼえていますか』を置いておく。

 

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おぼえていますか 目と目が会った時を

おぼえていますか 手と手が触れ合った時

それは初めての 愛の旅立ちでした

I love you, so 

 

この曲は、カバー版である「中川かのん starring 東山奈央 version」 もかなりいい。リンクを貼ったらなんだかよろしくない気がするので、各自なんらかの手段で視聴願います。俺はCDを持っているので何をしても正しい。収録CDである『「神のみぞ知るセカイ」キャラクター・カバーALBUM~選曲:若木民喜』はアニソン界きっての名盤なのでぜひ聴いて頂きたい。アラサー垂涎の楽曲・声優陣が最高のパフォーマンスを見せてくれるぞ。いまなら初回限定版の新品が14,800円だ!

 

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